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完全看護と入院付添費

  問題の所在
損保は入院した被害者に近親者等の付添が必要であっても、「完全看護」であることや、診断書に要付添の記載がないことも理由として入院付添費を否認します。
この主張は正しいのか検証します。

  完全看護とは
「完全看護」とは「病院または診療所において、その施設の看護師または看護補助者の協力を得て看護を行い、患者自らが看護にあたる者を雇い入れたり、もしくは家族などをして付き添わせる必要がないと認められる程度の看護」を意味しています。
確かにこの定義からすると「完全看護」だから入院付添費は発生しないという損保の理屈も成り立つように思えます。

  完全看護の歴史
わが国では終戦直後、GHQにより看護改革の指導がありました。当時、入院は「小さな引越し」といわれ、患者の家族は鍋、釜、七輪を持ち込んで生活し、患者の世話をしていました。
GHQはこうした看護状況を改善すべく「完全看護」という制度を創設し、これを採用した病院には診療報酬において点数を加算することになったのです。これは昭和25年に行われた改革です。

当時の状況では「完全看護」の定義通りに病院が看護を行うことは不可能であり、また、患者・家族が看護職員がなんでもしてくれるという誤解を生んだため、昭和33年には「基準看護」という名称に改められました。
つまり、昭和33年時点で「完全看護」という名称は法律上、存在しなくなったのですが、一般には基準看護のいう言葉は使われず、完全看護という言葉が亡霊のように生き残っています。

  基準看護と普通看護
基準看護とは看護補助者を含めた看護要員のみによる看護を前提とし、その配置数によって室料や看護料を含んだ入院料に加算するための診療報酬です。
当然のことながら、基準看護は診療報酬の名目に過ぎないのですから、「近親者等の付添費は不要である」ということを証明するものではなく、従って、損害賠償上、何らの法的効果を導くものではありません。

基準看護が認められるには厳しい条件があったため、そうした病院は多くはなく、その他の看護(普通看護)に分類される病院が過半数を占め続けました。
普通看護の病院では看護職員の代わりに患者が付き添い家政婦と契約を結び、患者のケアをしていました。
付き添い家政婦は病院のベッドとベッドの間の床に布団をしき、そこで生活をしながら患者のケアをするという非衛生的、前近代的な状況に置かれていました。
このような看護は誰が見てもおかしいというものであり、平成6年に廃止されました。

基準看護と普通看護が併存するのは昭和33年から平成6年であり、それ以降は基準看護一本となります。損保が被害者が入院した病院は完全看護だから・・・という主張は「完全看護」という言葉の誤用を除けば、正しいと言えます(正確には「基準看護だから」と言わなければなりません)。

  基準看護の程度について
看護職員の人員配置基準については医療法21条で定められています。
医療法の変遷については省略しますが、平成18年以前については雇用されている看護職員の数を表記していましたが、平成18年以降は実際にその時間に働いている看護職員の数(実質配置)を表記することになりました。
平成18年以前において例えば「2対1」とされたものは「10対1」と表記されるようになりました(10対1とは入院患者10人に対して看護職員が実際に1人働いていることです)。
平成18年以降では「7対1」が最も高い診療報酬上の評価がなされています。

  完全看護と入院付添費について
現在のすべての病院が基準看護であるため、建前上は近親者の付添や職業介護人は必要がないということになります。そのため、診断書に付添が必要と記載されることもないと考えるべきです。また、基準看護は診療報酬の場面でそうなっているというだけのことであり、近親者等の付添を不要とするほど、病院が完璧な看護を保障するとの意味は含んでいません。

「青い本」(2010、11頁)には以下の説明があります。
「医師の指示、あるいは受傷の部位、程度、被害者の年齢などから付添が必要であれば、相当な限度で認められる。付添いの必要性については、医師の指示があれば、明確であるが、現在では医療機関において基準看護(完全看護)制度が前提となっているため医師による要付添の証明がなされないことが多い」


以上は看護の沿革を知っていないと理解が困難です。

いずれにせよ、「完全看護」だから、あいるは「診断書に要付添の証明がないから」という理由で入院付添費を否認する損保の主張は成り立ちません。