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死亡、 重傷事案について

 刑事事件と民事事件 
(1) 刑事事件、民事事件の進行速度
人身事故においては刑事事件が進行しまた、民事事件(損害賠償問題)も並行して進行します。両事件の進行の速度が異なることから双方の事件が互いに与える影響などを考慮する必要があります。

(2) 死亡事故と後遺症事案の進行速度 
死亡事故においては民事事件では早い段階から損害額の算定が可能であり、早く処理をしようと思えば可能です。
一方、傷害事故において後遺障害が残存する場合は「症状固定」「後遺障害等級認定」の手続きを経て、はじめて損害額の算定が可能となります。
従って、死亡事故においては事故直後から刑事と民事は並行して進行することがあり、傷害事故においては刑事事件終了後、民事が最終的解決に向けて進行する場合が多いと言えます(刑事事件係属中は治療費、休業損害の支払いだけが行われる)。

(3) 刑事事件の終了までの時間 
刑事事件は事故発生からかなり早い段階で終了する場合もまた2〜3年もかかる場合もあります。私の経験では起訴するまで5年近くも要した事件があります。これは警察が事件を放置していたからですが、稀にそうしたこともあります。
比較的、刑事が早く終了するのは加害者が拘留され正式裁判を受ける事案です。
加害者が拘留されておらず、略式命令や不起訴で終わる事件は相当の年月を要する場合があります。 特に複数車両が絡んでいる場合はかなりの時間がかかります。

(4) 刑事弁護人が民事事件(示談のこと)で接触してきたなら 
刑事の正式裁判が行われると加害者の弁護人は実刑を避けるため様々の接触を被害者側にしてきます。その対応については刑事手続Q&Aで解説をしておりますが、基本は刑事事件終了後、民事事件に着手すると言うことになります。
と言うのは示談交渉を開始するとそれが加害者の誠意と受け取られて、刑事裁判上、加害者の有利な事情となるからです。

(5) 時効について
しかしながら、上記の通り、刑事事件が終了するまでかなりの年月を要する場合があり、「損害賠償請求権の時効」と言う問題があることに留意しなければなりません。

刑事事件の終了を待つ間、民事が時効になりそうになったらどうするか。
自賠責保険の被害者請求については、「時効中断」と言う手続きがありますので、それを利用します。加害者に対する賠償請求については
・内容証明での請求(但し、6ヶ月以内に民事訴訟を提起することが要件)
・加害者側から示談案を提示させる
のいずれかの方法をとらなければなりません。
なお、自賠責保険の被害者請求は加害者に対する時効を中断する効力はないので注意が必要です(任意保険会社と自賠責保険会社が同一でも同じです)。

(6) 刑事不起訴の場合 
刑事事件の正式裁判が行われた場合、不起訴となった場合について被害者側が何をすべきかについては刑事手続Q&Aを参考にして下さい。

 民事事件について 
(1) 死亡事案よりも後遺症事案が困難 

民事事件については死亡事故よりも後遺障害の残存した案件のほうが解決が困難です。死亡事故についてはある程度、損害額が定額化されているのに対し、後遺障害が残存した場合は損保側にとっては責め所が多く存在し、様々な主張をしてくるからです。
後遺障害が残存した事案で最も大きな額を占めるのは「逸失利益」です。従って、民事訴訟の争点は「逸失利益」が中心となります。

(2) 後遺症事案では逸失利益が争点となることが多い 
多くの場合、後遺障害による「逸失利益」は損害保険料率算出機構(NIRO)で認定された等級をベースにして請求を構成しますが、「認定等級が妥当なのか」と言う疑問もしばしば生じます。
そうした疑問が生じた場合はいきなり訴訟を提起せず、まず異議申立、自賠責・共済紛争処理機構で等級をアップする試みをした後、訴訟をすべきです。
基本的に裁判所はNIROで認定された等級に従い、後遺症損害を認めると考えておいたほうが良いでしょう。それ故、NIROで認定された等級は極めて重要な意味を持っております。
NIROで認定された等級よりも高い等級を裁判で主張することは可能ですが、裁判所に認めさせることは大変、難しいと考えておくべきでしょう。

(3) 逸失利益についての損保の戦い方 
損保側も「逸失利益」が最大の争点であると言うことは十分に認識を持って裁判に臨みます。そのため、最近は損保側の訴訟戦略に大きな変化が生じています。
カルテを取り寄せ、損保側の医師に意見書を作成させます。意見書の内容は「労働能力は喪失していない」「労働能力が喪失しているとしても僅かである」「後遺障害は数年で改善する」等の被害者に圧倒的に不利なものです。
また、損保側のこうした手法により、カルテの取り寄せ、分析に時間がかかり「裁判期日の延期」が頻繁に行われて、解決まで長期間を要することになります。

(4) 細かい損害にはこだわるな 
後遺障害の残存した事案では「逸失利益」が大きな争点であるにもかかわらず、雑費や交通費等の些細な損害にこだわっている被害者が多い と言えます。
こうした点へのだわりは、本質的な争点の見落としを意味していることに留意すべきであり、「損保にとって都合の良い被害者」と言えるでしょう。
交通費・雑費等は正確な費用を算出したり証明しようとすると額の割りには労力や時間を費やさなければなりませんので、細かい損害については「端折る」と言うことも必要です。

(5) 逸失利益について損保は「差額説」をとる 
意見書に対してどう戦うかも重要ですが、「逸失利益」独特の問題として、後遺障害が残存しているのに収入が減少していないと言う方も多くおられます。
その点も損保側は攻撃をしてきます。

「逸失利益」は事故前の収入と症状固定後の収入を比較して減収がある場合に限り、「逸失利益」が発生する(「差額説」)のが判例・実務であると損保は説明をします。しかしながら、実際には「差額説」に基づきながらも逸失利益を認めているのが判例・実務です。

後遺障害が残った場合、損害論では「逸失利益」が最大の争点となるので訴訟をする場合は損保側の主張を予想し、反論を用意した上で提訴すると言うことが必要です。

(6) 解決方法の選択 
民事事件解決の手法として「示談」「調停」「日弁連相談センター」「紛争処理センター」「訴訟」と言うメニューがありますが、その選択は熟慮が必要です。

「訴訟」は弁護士費用と遅延損害金がつくので有利であると言う方もおられますが、そう単純なものではありません。逸失利益の算定では「紛争処理センター」が有利ではないか、あるいは「示談による解決」がベターではないかと言う事案もしばしばあります。
また、過失相殺が大きい場合、自賠責保険金額を受領してそれで解決ということもあります。

死亡、重度後遺障害事案は訴訟が解決手段としてベストであるという意見の方もおりますが、そのように単純に言えるものではないことに留意して下さい。

 後遺障害等級の認定基準 
(1) 後遺障害等級について 
後遺障害等級は自動車損害賠償保障法施行令で定められています。
従って、六法全書を購入すればだれでも「基準」が分かります。
但し、施行令の基準はかなり抽象的な表現となっています。例えば、12級6号は「一上肢の三大関節中の一関節の機能に障害を残すもの」とされていますが、具体的にどのような後遺障害が、「一関節の機能に障害」を残したと評価されるのか記載されておりません。

(2) 後遺障害等級の具体的基準 
自賠責保険における後遺障害の具体的な認定基準は、労災保険のそれをほぼ準用しておりますが、労災保険の後遺障害認定基準は「労災補償 障害認定必携」という本に記載されております。
「労災補償 障害認定必携」は市販されており、発行は財団法人労災サポートセンターです。誰でも購入することが可能です。
後遺障害等級の獲得のためには後遺障害診断書の記載が重要ですが、「障害認定必携」を読むと何を記載して貰えば良いかが分かります。
また、「障害認定必携」と後遺障害診断書を照らし合わせると、ある程度、後遺障害等級を予想することが可能です。

 過失相殺について 
(1) 民事訴訟の重要争点は過失相殺 
民事事件でもう一つ、「逸失利益」とならび、重要な争点となるのは「過失相殺」です。特に死亡事故では「死人に口なし」と言う状態となるので裁判所は事故状況を加害者の言い分どおりに認める傾向があります。また、高次脳機能障害が残存した場合も事故状況を記憶していないのが普通ですので、同じようなことが生じます。
加害者が被害者に不利な事故状況を供述し、しかも他に証人はいないという場合、基本的に事故状況は加害者の主張通りとなると考えて下さい。

(2) 過失相殺における民事事件と刑事事件の関わり 
起訴前、警察、検察庁に事案が係属している段階である程度、加害者の主張が分かり、それが被害者に不利なものであるならば、被害者側の言い分を記載した上申書を提出するということも必要となってきます。
刑事について民事裁判の参考にするために正式裁判が行われたならば「傍聴」や「記録の謄写」をすべきです。そうした意味で過失相殺については民事裁判前から闘いが始まっていると認識しておいたほうが良いでしょう。

(3) 過失相殺の判断では刑事記録が最大の証拠 
民事裁判で裁判所が事故状況の認定の拠り所とする資料は「刑事記録」です。従って、被害者側が刑事記録を謄写することは極めて重要なことです。
刑事記録を分析して初めて、過失相殺について主張を立てることができると言って良いでしょう。

しばしば、テレビドラマなどでは弁護士が現地調査をしたり、あらたな証人を発見して有利に裁判を進めるというストーリーがありますが、このようなことは絶対にあり得ないと考えるべきです。重要なのは新たな証拠ではなく、刑事記録の緻密な分析であることを心に置いて下さい。

損保側の過失相殺についての説明を「納得できない」と言う被害者が多いのですが、損保側は裁判基準にもとづいて説明している場合が多く、 それなりの根拠があります。
被害者側としては「何故、納得できないか」を刑事記録から反論 する必要があるのですが、現実には感情的に納得できないと言っているだけで、損保との議論の体をなしていないのが実情です。

刑事記録は民事事件で重要なのですが、その重要性を理解していない被害者が殆どです。特に、刑事記録には保管期間があり、症状固定まで時間がかかる場合は、記録の謄写ができなくなることもあるので注意が必要です。
刑事記録の入手が可能になった段階で直ちに謄写することが必要です。