人身 パート2

 

Q11
わたしは会社の社長をしておりますが、事故で負傷し、役員報酬が支給されておりません。役員報酬で支払いが無かった額を休業損害として請求しましたが、保険会社は会社役員には休業損害は発生しないと言われました。本当にそうなのでしょうか。

A11
役員報酬は会社の利益の配当です。会社の利益配当はあなたが働ける働けないとか関わりなく、あなたに支払われるべきものですから、あなたが働けなくなったとしても休業損害は発生しないのです。取締役会であなたに役員報酬を支払わないと決定された場合でもあなたが自発的に役員報酬を受け取るのを辞退した場合でも結論に変わりはありません。

しかしながら、あなたが小規模な会社の社長である場合、あなたの役員報酬にはあなたが実際に働くことよって受け取るべき対価(「労務提供の対価」と言われます)が含まれている場合があります。その場合は、あなたの役員報酬の内、労務提供の対価に相当する部分につき休業損害が発生します。
要するにあなたに「役員報酬」の名目で会社から金銭が支払われていても実質は労務提供の対価部分があると休業損害が発生するのです。逆に「給料」の名目で支払われていても実質が会社の利益配当であるならば休業損害は発生しないことになります。

役員報酬の内、何割が労務提供の対価部分かは極めて難しくケースバイケースです。しかし、社員が僅かしかおらず社長自ら肉体労働をしているような場合は労務提供の対価部分は相当、大となると考えられます。反対に例えば上場企業の社長のような場合は労務提供の対価部分はゼロと言うことになります。

 

Q12
保険会社から示談案を提示されましたが、それが妥当なものか否か判断がつきません。どのようにしたら良いでしょうか。   

A12
被害者が加害者に請求できる損害の項目としては症状固定までの部分は治療費、休業損害、傷害慰謝料、通院交通費等があります。また、症状固定後の損害としては後遺障害慰謝料、逸失利益が考えられます。
治療費や通院交通費はともかく、休業損害については様々な問題が生じます(例Q10、Q11)。また、そもそも就労不能か否かと言うことも問題となります。傷害慰謝料や後遺障害慰謝料、逸失利益の算定も専門的な知識が必要です。過失相殺も同様です。素人では判断のつきにくいのが実状です。

このような場合、弁護士に相談するのが一番、安全です。知り合いの弁護士がいないならば弁護士会に弁護士を紹介をして貰うと言う方法があります。また、弁護士会でも法律相談をやっており、そうした法律相談の利用が一番良い方法です。なお、弁護士会は各都道府県ごとに存在しており、場所や電話番号を電話帳で調べることが出来ます。

なお、後遺障害が残った場合、保険会社は自賠責の保険金額のみしか提示しない場合も多いのですが、自賠責保険金額は最低限の賠償額です。
被害者に大きな過失がある場合等は賠償額は通常の算定をしても自賠責保険金額以下と言うこともあるかも知れません。しかし、保険会社が自賠責の保険金額を示談案として提示した場合は、それが妥当な案か否か十分、検討する必要があります。

 

Q13
保険会社との交渉は煩わしいので誰かに一任をしたいと思いますが、弁護士は訴訟をする場合でなければ依頼できないのでしょうか。また、弁護士で無い人から弁護士に依頼をすると直ぐ訴訟にしてしまい、金もかかるから自分が安くやってやると言われていますが、そのような人に依頼をして良いものでしょうか。弁護士に依頼する場合、費用の点が心配です。 具体的にどのくらいかかるのでしょうか。 

A13
保険会社との示談交渉も弁護士の仕事です。弁護士は訴訟だけをする訳ではありません。また、法律事務(当然、示談交渉が含まれます)は弁護士のみが独占をすることになっており、あなたの家族なら別ですが、それ以外の弁護士では無い人に依頼をすることは弁護士法違反(非弁行為)として、後に刑事問題となる可能性もあり、お勧めしません。弁護士費用はしばしば高額であると言われていますが、実態とかけ離れた風評だけが広まっているように思えます。

かつて弁護士報酬については「弁護士報酬基準」を各弁護士会が公表しております が平成16年4月1日より廃止されました。弁護士と依頼者との間で自由に決めることができるようになったのです。但し、多くの弁護士は従来の報酬基準に基づいて報酬を算定するのではないかと思います。そこで、従来の報酬基準に基づいての説明をすることにします。

次に弁護士費用の具体例を示します。
弁護士費用はあなたが受けた経済的利益に額によります。
例えば保険会社が1000万円で示談案を提示した時点で、あなたが弁護士に依頼したとしましょう。弁護士が1300万円で解決した場合、300万円が経済的利益となります。また、弁護士費用は事件に着手する前の着手金と事件終了後の報酬金がありますが、上記の300万円に対してそれぞれ着手金と報酬金が決めらます。経済的利益が300万円の場合、着手金は24万円、報酬金は48万円です。以下、解決額が1300万円、1500万円、1700万円、2000万円、3000万円の場合を示しました。

 解決額   経済的利益  着手金   報酬金   合計
1300万円  300万円   24万円  48万円  72万円
1500万円  500万円   34万円  68万円 102万円
1700万円  700万円   44万円  88万円 132万円
2000万円 1000万円   59万円 118万円 177万円
3000万円 2000万円  109万円 218万円 327万円
(以上は税抜の基準額です)

以上は保険会社が示談案を提示した場合ですが、その段階前に弁護士に依頼した場合は事案に応じた工夫が必要になってきます。

 

Q14
私は交通事故の被害にあい、1ヶ月入院、1ヶ月通院しました。通院回数は15回です。後遺症は残らず治癒しました。示談交渉で保険会社は慰謝料として37万円の金額を提示しましたが、何故、このような額となるのでしょうか。

A14
慰謝料とは精神的苦痛を埋め合わせるものですが、症状固定までの入通院慰謝料と後遺障害が残った場合の後遺障害慰謝料があります。
保険会社が提示したのは入通院慰謝料つまり症状が治癒ないし固定するまでの慰謝料です。

ところで入通院慰謝料には基準があります。大きく言って、自賠責保険の基準、任意保険の基準、裁判基準です。自賠責保険の基準は決まった計算式によって算定します。任意保険基準、裁判基準は傷害の程度、入院期間、通院の頻度等々により決まりますが、ある程度の大枠はあります。

ちなみにあなたの入通院の程度ではそれぞれの基準でどの位になるか算定しますと以下の通りです。
自賠責の基準では24万6000円、任意保険の基準では36万9000円、裁判基準では頸椎捻挫等の軽傷の場合48万円、それ以外の場合70万円です。それぞれの基準にどの程度の違いがあるか感覚がつかめたと思います。上記の場合、自賠責<任意保険<裁判基準ですが、常にこのようになるわけではありません。保険会社が被害者に提示する慰謝料としては自賠責基準か任意保険基準による場合が一般です。

以上の通り慰謝料には「基準」、つまり相場と言うものがあります。ところが、精神的な苦痛は事故の態様(ひき逃げ等)、加害者の態度(暴言を吐く、故意に事故状況を自分に有利にねじ曲げて主張する)等々により増すものです。こうした被害者の精神的苦痛を増大させる外的事情が存在する場合、その事情も慰謝料には反映されます。

 

Q15
後遺症の慰謝料はどのようにして決まるのでしょうか。

A15
後遺症の慰謝料は認定された等級により決まります。後遺症の慰謝料にも自賠責基準、任意保険基準、裁判基準がありますが、Q14の入通院慰謝料よりも基準により大きな差があります。その違いを1級と2級を例にとって示します。なお、任意保険基準は最低限ということで、多少の幅はあるようです(なお、任意保険基準は非公開ですので推定です)。

        等級  自賠責、任意保険基準   裁判基準 
         1級     1050万         2600万
         2級      918万         2200万

保険会社は示談の際、通常、自賠責基準か任意保険基準で提示をしてきますので、後遺症がの等級が大きければ大きいほど、示談で解決する場合と裁判で解決する場合の乖離が大きくなると言うことになります。
以上の通り後遺障害慰謝料には基準はありますが、Q14と同様、慰謝料と言うのは様々な外的事情により増減します。また、Q17で醜状痕は原則として逸失利益が発生しないとしていますが、特に女子の顔面醜状痕の場合など、逸失利益を無しとすることが被害者に酷であることもあります。その場合は後遺障害慰謝料で考慮されるべきでしょう。

 

Q16
逸失利益とはどのようなものでしょうか。休業損害とはちがうのですか。また、逸失利益はどのようにして算定するのでしょうか。

A16
事故により怪我をすると働けなくなり、収入が減少します。その損害は症状固定までは休業損害、症状固定後は後遺障害に基づく逸失利益として評価されます。逸失利益が生ずるには後遺障害が少なくとも14級以上に認定されていることが必要です。
逸失利益の算定方法は事故前の収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間のライプニッツ係数です。労働能力喪失率についてはQ17、労働能力喪失期間な期間についてはQ18、ライプニッツ係数についてはQ19を参照して下さい。

なお、事故前の収入と症状固定後の収入を比べ、その差額を逸失利益とする「差額説」と言う見解があります。これは最高裁でも認められた実務の主流と言って良いでしょう。
後遺障害の等級が認定された事案でも減収が無い場合がありますので、その時、保険会社は「差額説」を理由に逸失利益を認めないと言う立場をとります。このような場合、どのような理由づけで逸失利益を請求するかが問題となります。この辺りのことが問題になった場合は、弁護士のアドバイスが必要となります。

 

Q17
労働能力喪失率はどのようにして決まるのでしょうか。後遺障害が認定されたのに収入の減少が無い場合はどうなりますか。また、後遺障害が認定されたにもかかわらず、労働能力の喪失は無いとされることはありますか。

A17
労働能力喪失率は原則として自賠責保険の労働能力喪失率表によって定められます。具体的には後遺障害の重さによっ労働能力喪失率が決まるのです。例えば1級〜3級は100%、4級は92%、5級は79%で一番軽い14級は5%です。このような労働能力喪失率は労災の基準と同じです。もとより、自賠責の数字は一応の目安で絶対的なものではありません。

例えば左手の小指が動かなくなった場合は14級ですが、主婦の場合とピアニストの場合では労働能力の喪失に著しい違いがある筈です。労働能力喪失率は後遺障害の部位や職業を勘案して決めなければならないのです。

後遺障害が認定されたのに労働能力の喪失が認められないと言う場合もあります。
顔面の醜状痕、脊柱の変形、14級程度で特段の収入の減少が無い場合、歯の後遺障害などがその例です。勿論、どのような原則にも例外があります。顔面の醜状痕でも逸失利益が認められた例もあります。

 

Q18
労働能力喪失期間は具体的には何年間でしょうか。

A18
原則は67才までです。しかし、後遺障害の程度により喪失期間に違いがあります。後遺障害が軽いなら喪失期間は短く、また、後遺障害が重いならば長くなります。それならば具体的に何年なのかと疑問に思われるかも知れませんが、実は明確な基準が無く、判例を調べてもケイスバイケイスなのです。

なお、頸椎捻挫つまりむち打ち傷害(腰椎捻挫も含む)に対しては裁判所の態度はかなり明確です。14級の神経症状で5年以下、12級の神経症状で5年〜10年です。これはむち打ち傷害の症状がレントゲン等により他覚的所見が認められず自覚症状だけであることによります。要するに将来、症状がどのくらい継続するか他覚的所見が無く、予測出来ないのである程度、確実な所で認めようと言うことです。

 

Q19
私は1級の後遺症が認定されました。症状固定時の年齢は64才、事故前の収入は300万円です。私は逸失利益を300万円×(67才−64才)×100%(1級の労働能力喪失率)と計算して900万円を請求しました。
保険会社は3年のライプニッツ係数は2.72だから300万×2.72×100%と算定してきました。ライブニッツ係数とは何でしょうか。

A19
あなたは64才ですが、65才、66才、67才で受け取るべき、300万円を64才の時点で受け取るのです。そのため中間利息を控除する必要があります (要するに65才に受け取る分については1年間運用できる、66才受け取る分については2年間・・・)。民法で決められた利息は年5%であるのでその割合で控除されます。例えば、67才で受け取るべき300万円は本来、3年後に受け取るのですから、
単利ならば現在の価値×(1+0.05×3)=300万円
の計算で現在の価値を出すことが出来ます。

上記の計算式では 現在の価値=300万/1+0.05×3となる筈です。
このようにして中間利息を控除します。
中間利息の控除方法としてはライブニッツ方式とホフマン方式があり、東京地裁はライプニッツ、大阪地裁はホフマンを採用していましたが、平成12年からはライプニッツ方式で全国統一されることになりました。

以上の通り、逸失利益の算定では単純に就労が可能な年数を乗ずるのでは無く、その年数に対応したライブニッツ係数を乗ずることになります。年5分と言う数字は現在の経済情勢では非常識だと言う意見もあるかも知れません (定期預金などしても年5分で運用は到底できません)。しかし、現在の実務では相変わらず年5分が主流です。

 

Q20
私は事故で腰を痛めました。レントゲンを撮りましたら事故前から腰椎分離症があると言われ、保険会社も腰痛は事故が原因では無く、事故前からの既往症が原因だと言い張ってっています。しかし、事故前は何の症状も無く、事故さえなければこのような腰痛も生じなかった筈ですから保険会社の言い分には納得出来ません。保険会社の主張は正しいのでしょうか。

A20
あなたの腰椎分離症は無症状のものでしたが、事故によりそれが発症したのです。体に何らかの病変は生 じていたが、まだ、症状が現れていない状況の時、事故に遭い、症状が発生することはしばしばあります。

このような場合、事故前からの病変があったと言う理由で過失相殺の規定を準用して損害額から一定の割合を減額することが実務上行われています(「素因減額」と言います)。  
それでは減額の割合に何か基準があるのかと具体的な基準があるわけではありません。ただ、減額割合を決定するための要因として事故前から症状が発現していたか、疾患が難病か、罹患するについての被害者の責任、事故の衝撃、病変を有する人の割合等々を考慮すると言われています。

本件では、あなたに既往症があったとは言え、事故がなければ症状も発現することはなかったのですから加害者には一定の割合での責任が生ずると言えます。

<補足説明>
因果関係が問題になる場合、被害者は「あるに決まっている」と言う態度をとるのが通常です。そのため、医学的な検討を怠り、「事故の後、症状が発生した」と言う事実だけで戦い、結局、裁判がうまく行かないことくありますので留意すべきです。