人身 パート3

 

Q21
事故により被害者が死亡した場合は、誰が損害賠償を請求できますか。また、賠償内容はどのようなものでしょうか。加害者が死亡した場合は誰に対して損害賠償を請求できるのでしょうか。 

A21
交通事故により被害者が死亡した場合は被害者の相続人が損害賠償請求権を持つことになります。賠償の内容は後遺障害と同様、慰謝料と逸失利益です。但し、逸失利益についてはQ23で説明する通り、生活費控除がなされます。相続は相続分によって分割して相続されることになります。

例えば、被害者に妻と子供2人がいた場合、相続分は妻2分の1、子供はそれぞれ4分の1です。従って、被害者の損害額が4000万円では妻は2000万円、子供は各1000万円を請求できることになります。
このような場合、相続人が個別に加害者側と交渉するよりも相続人の一人を窓口として、つまり、代理人として交渉をすべきでしょう。

加害者が死亡した場合は加害者の負う損害賠償債務を加害者の相続人が負うことになります。この場合も相続分により分割して相続することになります。従って、被害者は加害者の相続人に対して、相続分に応じて損害賠償を請求することになります。

 

Q22
事故で被害者が死亡した場合、事故状況を知るにはどのような方法を取れば良いでしょうか。

A22
被害者が死亡した場合、警察が捜査し、刑事記録が作成されます。事故についての詳しい状況を知るには刑事記録を入手することが必要です。加害者が本裁判、罰金刑を受けた場合は、刑事記録を謄写することが出来ます。

問題は加害者が不起訴となった場合です。この場合、実況見分調書を弁護士照会で入手することが可能です(被害者遺族も謄写可能)。被害者死亡の場合、「死人に口無し」で加害者の一方的な説明に基づいて実況見分調書が作成されていることもありますので注意を要します。

しかしながら、実況見聞調書にはスリップ痕やガードレールの破損状況、道路上の血痕、被害車両、加害車両の損傷状況等の客観的で極めて貴重な情報が記載されており、それらの証拠と加害者の説明が矛盾していないか検討することが出来ます。

死亡事故では実況見分調書以外にも次のような刑事記録が作成されている可能性があります。死亡被害者の血中アルコール濃度検査の報告書または鑑定書、加害者のアルコール呼気濃度検査の報告書または鑑定書、被害車両及び加害車両の速度の鑑定書等です。これらの資料は民事裁判で決定的な証拠となります。不起訴の場合、これらの資料を弁護士照会により取り寄せることが可能かと言う点ですが、原則としては可能です。しかし、私の体験では検察庁ごとに姿勢が異なってお入手が困難な場合もあります。

 

Q23
私の夫は事故で死亡しましたが、加害者側保険会社から逸失利益のうち、5割を生活費控除すると言われました。生活費控除とはどのようなことでしょうか。 

A23
事故により被害者が死亡すると、その相続人は死亡慰謝料と逸失利益を加害者に対して請求することが可能となります。逸失利益は被害者が生きていたならば仕事をして得ることが出来た筈の収入です。

被害者が生きていた場合、得ることの出来た筈の収入は

A 被害者自身にために消費される部分
B 家族の扶養のために消費される部分
C 貯蓄され遺産として残る部分

に分けられますが、Aについては相続の対象である逸失利益から控除されるべきです。
このAの部分が生活費控除と呼ばれるのです。言葉は「生活費控除」ですが、生活に必要不可欠の出費だけではなく、贅沢品の購入等も含まれます。

それでは具体的に逸失利益のうち、どの程度の割合が生活費控除であるか問題になりますが、ある程度の目安はあります。裁判基準では以下の通りです。
男子(独身者、幼児)・・・50%
一家の支柱   扶養者一人・・・40%    扶養者二人・・・30%
女子(主婦、独身、幼児)・・・30%

勿論、以上の控除割合は具体的な事情により異なって来ます。また、保険会社が示談案を提示した場合、上記の割合とは微妙に異なる場合がありますので注意を要します。死亡
事案では5%、10%でも控除割合が違いますと、示談金の大きく異なってきますので生活費控除については十分な検討が必要です。 死亡事故では過失相殺のみに心を奪われ、生活費控除の点は何も考えていない被害者遺族が多いので要注意です。

 

Q24
私の夫は車を運転中、事故に遭い死亡しました。夫の車にはA社の保険をかけていましたが、1000万円の搭乗者保険金保険金がA社より支払われました。しかし、私と加害者側保険会社B社との交渉でB社が賠償額から、搭乗者保険金1000万円を差し引くと言ってきましたが、B社の言い分は正しいのでしょうか。

A24
事故が発生すると被害者は加害者に対してどのような損害を請求するかをまず考えますがその前に被害者自身が自分の車にどのような保険をかけていたのかを確認する必要があります。任意保険をかけているならば大抵、対人、対物保険だけでなく搭乗者傷害保険やQ25で問題とする無保険車傷害保険も合わせてかけられていることも多いのです。 

ところで、搭乗者傷害保険金は事故を原因として被害者(本件の場合は遺族)に支払われますが、損害賠償としての性質は無く、B社が言うように損害から差し引くことは出来ません。同様の性格のものとしては生命保険金があります。従って、B社の主張は間違っています。

但し、搭乗者傷害保険が損害額算定上考慮される場合があります。例えば、本件の事例であなたの夫が他人Cの運転する車(Cの所有の車と考えて下さい)の助手席に同乗しており、その車にCが搭乗者傷害保険をつけていたとしましょう。また、事故がCの過失で発生したとして、Cが賠償責任を負うことにします(良くある事例です)。そして、Cのかけていた搭乗者保険金があなたに支払われた場合、搭乗者傷害保険金はCの保険料の負担により支払われたのですから、この保険金はCからの一種の「見舞金」と考えられます。

見舞金の支払いは一般に慰謝料を減額させる事由になると言われていますので、搭乗者傷害保険金があなたに支払われた場合も慰謝料の減額と言う効果が生ずることになります(保険金全額の減額と言うことは無いでしょう。あくまで「見舞金」ですから)。

搭乗者傷害保険金が被害者(またはその遺族)に支払われた場合、保険料を負担していたのは誰かが重要なのです。被害者本人が保険料を負担していた場合は法律上影響なし、加害者本人が負担していた場合は搭乗者傷害保険金は「見舞金」と見なされ、慰謝料減額事由になる・・・とまとめられると思います。

  

Q25
わたしの運転する車はセンターラインオーバーをしてきた暴走車と正面衝突しました。その事故でわたしは重い後遺症が残りました。しかし、加害車両には自賠責保険がつけられていたのみで任意保険がついていませんでした。加害車両の運転者は「金が無い」の一点張りで交渉が少しも進みません。どのようにしたら良いでしょうか。

A25
まず、加害車両の自賠責保険に対し、あなたが被害者請求をします。しかし自賠責保険は最低限の補償を定めたものですから、あなたの損害を埋め合わせるには不足する可能性があります。その場合、不足分を加害者に請求します。加害者が任意保険をかけていなければその分は加害者が自腹で払うと言うことになります。「金が無い」と言って支払わないならば訴訟を起こすしかないでしょう。しかしながら、任意保険をかけていない人は通常は資力が無く、訴訟に勝っても判決は画餅になる可能性もあります。
従って、以下の方法がとれるならば、そのほうがベターと言うことになります。

加害者に支払わせるのが難しい場合、まず、あなたがどのような保険をかけているか確認する必要があります。そして、自分がかけている保険に「無保険車傷害保険」 「人身傷害保険」がついているか確かめて下さい。「無保険車傷害保険」は加害車両に任意の対人賠償保険がついていない場合などに、加害者が支払うべき損害額(自賠責保険金を超過する分)をカバーするものです。 「人身傷害保険」は、被害者の過失割合に関わり無く、約款で定められた損害額が支払われるものです。

また、「無保険車傷害保険」は加害車両に任意保険がついていない場合だけではなく任意保険はついているがそれが有効に働かない場合(家族限定や年齢条件で)、任意保険がついていても被害者の損害額が任意保険の限度額を超える場合も適用があります。
更に、「無保険車傷害保険」は当て逃げの場合、つまり加害車両が特定出来ない場合にも利用できます。

いずれにしろ、加害車両が任意無保険ならば、あなたが自分の車に「無保険車傷害保険」「人身傷害保険」をかけているか否か確認し、その保険の利用を検討すべきでしょう。
また、加害者に対する怒りの気持ちは刑事で重く罰してもらう努力に切り替えるべきです。

<補足説明>
加害車両が任意保険をつけていない場合、「他車運転危険担保特約」の適用が無いか検討することも忘れてはなりません。
この特約を簡単に説明しますと「Aが自分の所有する車に任意保険をつけていたが、一時的にBの無保険車(他車)を借りて、運転し事故を起した場合、A所有の車の任意保険が使える」と言うものです。

 

Q26
わたしと夫は婚姻届を出しておりませんでしたが、実質上の夫婦として長年、生活していました。今回、夫が交通事故で死亡したのですが、加害者側の保険会社はわたしには相続権が無いのだから賠償は出来ないと言われました。保険会社の言い分は正しいのでしょうか。

A26
同居する等して事実上の夫婦であるにもかかわらず婚姻届けを出していない場合は内縁関係にあると言えます。内縁関係にある夫婦も正式な夫婦と同様な法律関係が生じます。但し、内縁配偶者の間では相続は生じませんので、保険会社のような言い分が出てくるのです。

事故で死亡した場合、死亡被害者に生ずる慰謝料、逸失利益が相続人に相続されると言う法的構成を取ります。従いまして、相続権の無い、あなたのような内縁に妻には被害者の損害を相続する資格が無いと言う結論となります。

しかしながら、法的構成を工夫して、加害者に損害賠償を請求することも可能です。例えば、あなたが内縁の夫に扶養されていた場合、扶養されていると言う利益が事故により失われることになります。この扶養利益の喪失を損害として加害者に請求することが出来ます。そのためにはまず、内縁の夫の収入のうち、あなたの扶養にために使われる部分が全体の何割かを確定する必要があります。

次に扶養期間も確定する必要がありますが、その要素としてはあなたの平均余命、あなたの子供による扶養の可能性、あなたが結婚をする可能性等々の事情を考慮する必要があります。具体的に何年かと言うことはなかなか難しくケースバイケースですが、いずれにしろ、扶養利益の喪失と言う形で加害者側保険会社に損害を請求すれば良いでしょう。また、慰謝料についてはあなたがあなたの夫の慰謝料を相続することとありませんが、あなた固有の慰謝料が発生しますので、その請求も可能です。

なお、扶養利益の喪失を請求する場合は、示談交渉では無理で訴訟が必要です。法律的にも大変、難しい事案ですが、上記の通り、可能性が無いわけではありません。

<補足説明>
扶養利益の侵害と言う法的構成はこの例にある内縁関係以外にも使える可能性がありま
す。例えば、被害者が債務を負っており、相続人が相続放棄をした場合です。相続放棄をしますと被害者の慰謝料、逸失利益も相続人は放棄したことになります。
しかし、相続人が被害者から扶養を受けていた場合、扶養利益の侵害と言う角度から損害を構成することが出来ます。
この扶養利益の侵害は相続されたもので無く、相続人固有のものですから、相続放棄したとしても相続人は主張できると言えます。

 

Q27
わたしの夫は40才の時に事故に遭い、治療をしていましたが、42才で重度の後遺障害を残して症状固定しました。わたしが加害者側保険会社と示談交渉中に夫は第2の事故で44才で死亡しました。保険会社は逸失利益は44才までしか発生しないと主張していますが、その主張は正当でしょうか。

Q27
この問題についてはかつては死亡までの逸失利益しか認められないと言う見解と死亡しても稼働可能な年齢(通常は67才)まで認められると言う見解が対立していました。しかし、平成8年4月及び5月に2つの最高裁判決が出て(それぞれ「4月判決」「5月判決」と言われます)、実務は統一されました。

最高裁の判決によると後遺障害確定後、事故とは無関係の原因で死亡した場合、稼働可能年齢までの逸失利益が認められます。但し、事故の時点で既に重病にかかっている等将来に死亡すると言うことが予測されていた場合は、死亡までの時点しか逸失利益は認められません。

Q27の質問の場合、被害者は最初の事故とは関係の無い原因で死亡したと想定していますが、仮に事故が原因で死亡したとしたらどのように考えられるでしょうか。まず、症状固定後も症状が憎悪して死亡した場合ですが、この場合、症状は実は固定していなかったと言わざるを得ません。そうしますと事故日から死亡までは休業損害を死亡後は死亡による逸失利益(この場合、生活費控除がなされます、Q23参照)を請求できることになります。

また、症状固定後、重度の後遺症が残り、それを悔やんで自殺したような場合、自殺はやはり事故との因果関係があると考えられますから、症状固定後、死亡までは後遺症の逸失利益、死亡後は死亡による逸失利益(生活費控除がなされる)を請求できると考えられます。但し、最高裁の「5月判決」では、稼働可能年齢までの後遺障害による逸失利益の方も選択出来るような表現をしていますので、どちらの請求が有利かを検討する必要があります。

 

Q28
わたしの息子は夜間、原付自転車を運転中、道路左端に駐車していた大型トラックの後部に突っ込み死亡しました。大型トラックの所有者に息子の死亡による損害を請求したところ、「あなたの息子さんが勝手にトラックに突っ込んで来たのだから自爆事故だ、うちは何も払うつもりは無い」と言われました。その主張は正しいのでしょうか。

A28
夜間、駐車中の大型貨物自動車に原付自転車や自動二輪車が追突すると言う事故がしばしばあります。

このような場合、駐車車両に何の責任もないのか問題が生じます。この問題を考えるにあたってはまず、ドライバーに前方注意義務があると言うことが出発点となります。従いまして、昼間、駐車禁止の場所に駐車している車に追突したとしても事故の原因は専ら前方注意義務を怠ったことによると考えられますので、駐車車両には過失が無いと言えます。
しかし、夜間は極めて前方の状況を見極めることが難しく、駐車車両が尾灯をつけていたとしても自分の車と駐車車両の距離や尾灯の見える車が停まっているのか走行しているのか判断がしにくいのが一般です。

それ故、夜間に車を駐車させることは他の車に危険を与えると言え、駐車車両に過失責任を問う余地が出て来ます。

具体的には、周囲が明るいか暗いか、道路の幅、駐車車両がどの程度、道路にはみ出していたか、尾灯をつけていたか等々により、駐車車両の過失責任の有無、程度が決まってくると考えられます。

質問と類似の事案の判例では駐車車両に3割〜4割の責任を認めたものがあります。また、それ以上の過失を認めた例もあります。何れにしろ、駐車車両は無条件に無過失だとは決して言えませんので、本件でも事実関係を良く調査し、大型トラックの過失の有無を検討する必要があります。

<補足説明>
このような事案ではまず、自賠責保険の被害者請求をするべきです。

 

Q29
わたしは友人が運転する車に乗せて貰い、ドライブをしていましたが、友人が運転を誤り、車は電柱に激突、わたしは怪我をしました。私は友人が車につけていた保険会社と示談交渉をしていますが、保険会社は好意同乗だから損害額を減額すると主張しています。好意同乗とはどのような意味でしょうか、また減額すると言う保険会社の主張は正しいのでしょうか。

A29
我々は運転者の好意により無償で車に乗せて貰うことが良くありますが、そうした場合、好意同乗と呼ばれます。そのような場合、同乗者は無償で運行利益を享受しているのだから(要するに運転者の親切によってでただで車に乗せて貰っているのだから)、損害額全額を運転者に請求するのはおかしい。だから、被害者に生じた損害額を減額すると言うのが好意同乗の理論です。

しかしながら、何の落ち度もない同乗者の損害を減額するのは問題があり、最近は減額を否定するのが実務です。但し、同乗者にも落ち度があった場合、例えば、運転者が無免許と知っていた場合、飲酒運転と知っていた場合、また、速度違反するように呷ったりした場合、損害額を減額すべきです。そのような特別の事情の認められる場合に限り、同乗者にも過失があると言え、過失相殺規定が適用ないし準用されるからです。

保険会社は上記のような特別な事情が無い場合でも、好意同乗減額を主張しますので、注意が必要です。

 

Q30
わたしはインド人ですが日本の企業で働いています。この度、事故に遭い、後遺症が認定されました。現在、加害者側保険会社と示談交渉をしていますが、保険会社は逸失利益を低い本国の平均的収入で算定し、また、後遺症慰謝料も日本人より低い額を提示しています。このような保険会社の算定は正しいのでしょうか。

A30
外国人にはさまざまな在留資格があります。
永住を許可された外国人は逸失利益及び後遺症慰謝料を日本人と同じように算定します。

一方、逆に、就労可能な資格を持たないで、就労していた場合などは逸失利益については3年程度は日本の収入で認め、それ以降は本国の収入で認めることになります。また、この場合、後遺症慰謝料も日本人よりも若干低めとなります。これは3年程度は日本で働、その後は本国に帰る可能性が大であると言う根拠に基づいています。

次に、就労可能な資格を持って働いている場合、在留が認められている期間の間、及び更新が予定される場合はそれをも含めた期間については日本の収入で、それ以降は本国の収入での算定と言うことになります。

あなたの場合、就労資格が無いならば3年程度は日本の収入で、就労資格があるならば何時まで在留を予定しているか明らかにし、その期間は日本の収入で算定すべきであると保険会社に求めるべきです。

なお、外国の平均収入は財団法人「日本ILO協会」が発行している「国際労働経済統計年鑑」で調べることが可能です。