物損 パート1

Q1
私の車は事故で破損しましたが、修理代として70万円を要します。ところが、保険会社は中古価格は40万円だから、その限度でしか支払えないと言っています。私は修理をしたいのですが、修理代は請求できるでしょうか。     

A1
あなたの請求は中古価格の限度、つまり40万円の限度でしか認められません。その理由は40万円で中古市場で代わりの車を見つけられるからです。この問題は物損では最も頻発するトラブルです。


被害者にはこのような理論は保険会社内部の勝手な理屈と思っている方がおられますが、これは保険会社内部の基準ではなく、裁判所の判断です。また、この判断は既に実務では確立しています。 

なお、修理するか否かはあなたの判断に委ねられます。修理すると言うことでしたら差額の30万円はあなたの自己負担と言うことになります。

<補足説明>
管理人が損保の顧問弁護士をしていた時代、このような事件の依頼が年3〜4件はありました(物損の第1問目に取り上げたのは頻発する紛争だからです)。
いずれも、被害者に説明をして分かって頂けたケースが殆どでしたが、どうしても納得出来ないと言う被害者もおりました。こうした被害者に対しては債務不存在確認訴訟を提起しました。

債務不存在確認訴訟は「加害者には時価額を超えては支払い義務が無い」ことの確認を求める訴訟です(加害者が被害者に対して訴訟を起こすのです)。裁判はすべて損保側勝訴です。
稀に損保は時価額を超えた修理代を認めることもあると言う方もおりますが、少なくとも管理人は時価額を超える修理代を支払って解決したことは一度もありません。

 

Q2
私の車は事故で全損となりましたが、既に10年前に新車で購入したなのでレッドブックには掲載されておらず、新車価格の200万円の10分の1である20万円が中古価格であると保険会社から言われました。レッドブックとは何でしょうか、また、何故、新車価格の10分の1しかみとめられないのでしょうか。

A2
中古価格は毎月発行されるレッドブック(正式には「オートガイド自動車価格月報」)と言う雑誌に掲載されており、それにより中古価格を認定するのが実務です。しかし、古い車はレッドブックには掲載されておらず、そうした場合は減価償却法によります。


減価償却法では一般の乗用車の耐用年数が6年で、償却期間を経過したものは新車購入額の10分の1が残額となります。あなたの車の中古価格が新車価格の10分の1とされたのは減価償却法によるのです。

但し、あなたがその判断に不満であると感じたならば、あなたはそれ以上の価値があると立証しなければなりません。立証方法としては中古車雑誌で同年式・同型式の車がどの位の値がつけられているか調べる方法が一般です。また、最近はインターネットでも中古車販売が盛んなので、インターネットによる調査も可能です。

 

Q3
全損となったので新たに中古車を購入しようと思います。自動車税、自賠責保険料、自動車取得税、登録費用、車庫証明費用、納車費用、廃車費用、自動車重量税がかかります。これらの諸費用は請求が可能でしょうか。   

A3
まず、自動車税、自賠責保険料は還付制度があり認められません。

自動車取得税は認められます。登録費用、車庫証明費用、納車費用、廃車費用も認められます。

自動車重量税は中古車購入時にはかかりません。

これらの損害の額については被害者が立証しなければなりません。しかし、一々、証明するのは煩わしいので一括して大体、幾らと言うことでも良いと思います。こうした諸費用は最近は判例でも認められており 、また以下の通り「赤本」でも認められることが前提で書かれております。しかし、過去においては否定した判例ものがあり、保険会社もこうした諸費用を認めることには強い抵抗を示します。

「赤本」は東京三弁護士会が編集した本で実務に強い影響を持っていますが、「赤本」には諸費用について以下の通り書かれています。
「買い換えのために必要になった登録費用、車庫証明費用、納車費用、廃車費用のうちの手数料相当分及びディーラー報酬分のうち相当額並びに自動車取得税については損害として認められる」(2000年版 赤本73頁)

保険会社が「払わない」と言う場合、紛争処理センター等に示談斡旋の申し立てをすべきでしょう。訴訟を提起したい方は訴状例をご覧下さい。

<補足説明>
「全損となって、新車を購入した場合、新車にかかる自動車取得税を損害として請求できるか」が問題となります。この問題はQ1,Q21とリンクしています。もともと、被害車両が全損となった場合もその代償としては法的には新車(新車代金)を請求できず、中古価格の限度でしか請求が出来ないのです。従って、被害者が新車を購入したからと言っても、事故車の中古価格に対する自動車取得税を限度とした請求しか出来ないことになります。

<補足説明2>
上記の説明では紛争処理センター等に申し立てると言う解説をしておりますが、最近紛セは物損のみは扱わないこともあるようです。従って、方法としては調停申立と日弁連交通事故相談センターに示談斡旋の申し立てが考えられます。但し、日弁連の方は過失相殺が問題になる場合は向いておりません。調停はどのような事案でも大丈夫です。

<補足説明3>
損保側が認めない理由は一つは判例があること、もう一つは車と言うものはいつか買い替えが必要だから買い替え時期が早まっただけだと言う点にあります。しかし、諸費用が否定された判例は過去のものであり、最近では認めるのが実務です。

また、後者の根拠は詭弁です。例えば、耐用年数6年の車が新車で購入してから4年で全損となった場合、事故が無ければ購入から6年後に1度、買い替えが必要となります。しかし、購入から4年で事故にあった場合、4年使用した車両の中古価格しか認められないのですから、2年後にもう一度、買い替えが必要となります。

つまり、事故が無かったならば新車で購入してから6年後に1回買い替えるだけで足りたのに、事故があったために4年後と6年後の2回買い替えが必要になることになります。「車はいつか買い替えが必要だから諸費用は認めない」と言うのは詭弁であると理解できると思います。

<補足説明4>
諸費用を認めないと言う判例で管理人が確認しているのは次の3つです。

1 京都地裁、昭和58年3月30日判決
いすれ買い替えが必要であるからと言う理由で否定しました。

2 大阪地裁、昭和63年1月14日判決
否定した理由は何度、読んでも理解不能ですので、掲載しません。

3 静岡地裁富士支部、昭和63年12月23日判決
新車買替費用を被害者が請求していたが、「事故車と同等の中古車の買い替えに必要な費用は認められるが、新車買い替えの費用は認められない」として否認、つまり、これは被害者が新車買替費用を請求したから棄却されただけで、中古車買替費用を請求していたならば認められていたのです。

なお、認めた判例として最も古いものは東京地裁、平成元年10月26日のものです。その前年の昭和63年の赤本において、東京地裁交通部の裁判官が諸費用を当然認めることを前提とした論文を発表し、昭和63年〜平成元年にかけて、諸費用を否定する方向から肯定する方向へ大きく流れが変わったと思います。

管理人はその頃、既に損保の協力弁護士として数々の事件で、加害者側弁護士として、被害者との交渉にあたっておりましたが、63年赤本の論文を読んで、諸費用を認める方向での解決を目指すようになりました。現在、多くの諸費用を認めた判例が存在しておりますが、損保側は認めないのが通常です。勿論、損保担当者にも様々な方がおられ、ある程度のところ(例えば半分くらいは認める)で解決を目指すと言う柔軟性のある方もおられますが、そうした話しが全く出来ない方もいます。

 

Q4
私の車は事故で全損となりましたが、保険会社は中古価格は15万円と言ってます。実際、そんな価格で中古車を手に入れることが出来ないので、私は被害車両と同型式、同年式、同程度の車を現物で持ってきて欲しいと思います。そのような要求は出来るのでしょうか。

A4
法律上、現物の請求は出来ません。加害者の賠償方法を定める民法722条は民法417条を準用していますが、民法417条は「金銭賠償」に限定しているからです。貨幣経済が発展し、また、商品が大量生産される現代社会では金銭賠償が賠償の方法として最も簡便だからと言うのがその理由です。


なお、現物の請求ではなく、同型式、同年式、同程度の車の買い換え差額は認められるかと言う問題もありますが、これも否定されます。全損であれば中古価格の限度でしか、損害は認められないからです。但し、買い換え諸費用については別途考慮する必要があります(Q3参照)。

 

Q5
私の車は事故で破損しましたが、修理をしますとその部分と他の部分の色艶にムラが生じます。そこで、全塗装を要求したいのですが、可能でしょうか。

A5
全塗装要求は出来ません。普通、塗装は修理部分と他の部分との間にボカシをいれますので、それほど目立つことは無いのです。また、クルマと言うものはそもそも「人と物を運搬する道具」ですので、そのような美観の点は法の世界では重要視されないのです。裁判上も全塗装は否定されており、幾つかの判例があります。

加害者の立場で説明しますが、全塗装要求は悪質な被害者が高額な損害賠償金を得るための常套手段であり、応じるべきではありません。

 

Q6
私の車は事故で破損し、修理をしましたが、ある人から格落ち損害が請求できると言われました。格落ち 損害とは何でしょうか。

A6
格落ち損害とは「評価損」「査定落ち」とも呼ばれます。修理しても機能や外観に欠陥が生じ、また、事故歴があるために商品価値が下落したことによる損害です。従来は全面的に格落ち損害を否定する説もありましたが、現在ではある一定の条件で認めるのが実務です。


大まかに言って、

1 修理後も機能上の欠陥が残存している場合は認められます。美観が損なわれたと言う  だけでは無理でしょう。

2 修理後に機能上の欠陥が残存していなくても、事故による損傷が車の主要な骨格部分  に及んでいる場合は認められます。
パンパーやフェンダーが損傷して交換修理が出来る程度では認められません。

 

Q7
修理代30万円をかけて、車を修理しましたが、格落ち損害を請求するために業者に下取り価格を見積もらせました。それによると事故前の価格は100万円、修理後の価格は80万円で20万円が格落ち損害と言われました。20万円を加害者に請求可能でしょうか。

A7
法律実務ではそうした業者の査定落ち評価は認められておりません。

それでは、具体的格落ち損害はどの程度になるかですが、Q6で説明した通り、まず、格落ち損害が発生する条件に該当するか否かが検討されなければなりません。
そして、その条件に該当した場合、修理代の1割から3割の範囲で認められます。従って、修理代が30万円でしたら格落ち損害は3万から9万円の範囲で認められることになります。

新しいほど、また損傷の度合い、機能上の欠陥が大きいほど3割に近く、逆の場合は1割に近いということになります。
古い車の場合は車自体の価値が低く、修理による商品価値の減少ということも生じないため、格落ち損害は否定されるでしょう。

なお、財団法人自動車査定協会が査定落ちの鑑定をしています。但し、そこの鑑定書は評価基準に確たる根拠が無く、絶対的なものとは言えません。判例も協会の鑑定書に基づいて、格落ちを認めた場合もありますし、信用性が無いとした場合もあります。しかしながら、保険会社に対する説得材料としてはそれなりの意味はあるかも知れません。

 

Q8
私はロールスロイスに乗っていますが、この度、事故にあい、保険会社にロールスロイスの代車を要求したところ、拒否されました。私はそれには納得できないので自分でロールスロイスを借りて乗っていますが、その代車料は請求できるでしょうか。

A8
ロールスロイスの代車料は請求できません。せいぜい、国産上級車の代車料を請求できる程度です。


損害賠償と言うのは被害者に原状を回復させることが目的ですが、もともと、車と言うのは法の世界では「人と物を運搬する道具」でしかないのです。従って、そのような道具としての機能が備わっているものが被害者に与えられれば原状回復はされていると法は評価するのです。

ロールスロイス、ジャガー、ポルシェ、キャデラックリムジン、ベンツ500SEL−AMGにつき判例があります。何れも国産上級車に代車料しか認められないとしています。

 

Q9
私は事故にあい、車が破損しましたが、保険会社に新車を要求しています。しかし、仕事で車が無いのは困りますので、レンタカー会社から車を借りて仕事をしています。この度、この事故のことで裁判となりましたが、裁判が終わるまでの代車料を請求したいと思います。可能でしょうか。

A9
代車料は修理に必要な相当の期間認められます。全損の場合は、代替車を購入するために必要な期間につき認められます。修理に必要な期間とは通常1週間か2週間であり、また、代替車を購入するために必要な期間はそれよりも若干、長めと考えられます。しかしながら、実際に被害車両が修理に取りかかっており、それが部品の取り寄せや、修理の順番待ちで代車使用期間がある程度、延びたとしたもそれはやむを得ないことですので、修理完了までの代車料を請求できます。


しかし、あなたは新車要求をされています。新車要求は法律上認められおりません。つまり、代車の使用期間が延びたとしてもそれはあなたが無理な請求をしていることが原因なのです。

従って、公平の観点から裁判が終わるまでの期間の代車料は到底認められません。あなたが請求できるのは修理に必要な相当期間、つまり、1〜2週間程度の代車料です。それ以降の期間の代車料はあなたの負担と言うことになります。

 

Q10
私は長年、大事にしてきた車が事故にあい、全損状態となりました。車に愛着があるので慰謝料を請求したいと思いますが可能でしょうか。

A10
車が損傷したことによる慰謝料は認められておりません。

もともと、物損の慰謝料は例外的な場合に限定されています。判例に現れたものは「愛犬が車に轢かれて死んだ」とか「深夜、トラックが家の中に飛びこみ、生命の危険を感じた」と言う場合です。

車と言うものは法の世界では「人と物を運搬する道具」です。修理により道具としても機能が回復すればそれ以上の損害は生じない筈ですし、また、賠償金で代わりの車を購入することが出来るので、物損の慰謝料は否定されるのです。

このような一般論に対し、自分の車に対する愛着は特別だ、だから自分だけには慰謝料が認められてしかるべきだと言う方は稀におられます。
しかし、法は個人のそうした主観的な価値感情を保護するものではありません。法の保護の対象は大多数の人々の平均的な感覚を基準にして決められているのです。