物損 パート2

Q11
事故直後、加害者が「全面的に責任を持つ」と言いましたが、その後の示談交渉で、わたしに過失があると言い、過失相殺を主張し始めました。加害者は「全面的に責任を持つ」と言ったのに、言い分を変えることは許されるのでしょうか。

A11
事故直後は事実関係や損害額などの事案の全容を当事者は把握していません。また、過失相殺や加害者の賠償義務がどの程度まであるのかと言う法律的な理解も無い状態です。そのような状態での言葉には法律的に拘束力を認める訳には行きません。

加害者が「全面的に責任を持つ」と言った意味は「自ら過失があることをみとめ、法律的に賠償義務のある損害を支払う」と言う程度の意味しか無いと考えるべきでしょう。従って、加害者が過失相殺を主張することも許されます。

参考判例 名古屋地裁平成14年3月22日、自動車保険ジャーナル1449号
一方的過失を記した念書は、当日「双方の状況を十分に検討しないまま本件念書を作成したもので錯誤があったと認め、念書により拘束されない」とした
この判例は修理代約300万円の物損にしてはかなり金額の大きな事案です。また、加害者の過失は9割と認定されています 。「当日」とは事故当日のことです。加害者が保険代理店に電話をしたが、連絡がとれず、そうした状況の中で、全面的に自分に過失がある考えて、念書を書いてしまったと言う経緯があります。

<補足説明>
修理代>中古価格の場合、加害者の賠償義務は中古価格の限度でしか生じません。
事故直後、加害者が「修理代を払う」と言った所、後に修理代が中古価格を上回っていたことが分かった場合、加害者に修理代を支払う義務が生ずるのでしょうか。
答えはノーです。
「修理代を払う」と言う意味は「法律的に責任があるものを払う」と言う意味に過ぎないからです。

Q12
物損事故を起こしましたが、私の車も相手方の車も損傷は僅かであり、修理代も大してかからないと一目で分かりました。また、過失については私にも相手方にもあると思いましたので、事故直後に「修理代については各自が自分で負担をする」と合意しました。しかし、後に相手方の過失が極めて大きいと分かりましたので、修理代を相手方に請求したいと思いますが出来るでしょうか。

A12
まず、民法上、「錯誤」の適用があるか否か検討しなければなりません。「錯誤」の適用があると当事者間の合意は無効になるからです。無効になれば相手の過失割合に応じた修理代を請求できます。

民法上の「錯誤」と言えるためには表示(この場合は「修理代は各自負担する」と言うあなたの意思表示)と真意が一致していないことが必要です。

ところで、軽微な物損の場合、示談交渉をするのが煩わしく、早期で簡便な解決を当事者が望むことがあり、このような場合、事実関係の詳細が解明されていなくても、その場で直ぐに解決した方が良いと判断する場合も多いと思います。この件の場合も、軽い物損であるので、あなたの真意もそのようなものであり、「修理代は各自負担」と言う合意をしたものと推測出来ます。

としますと、表示とあなたの真意は食い違ってはおらず、「錯誤」の適用は無いことになます。従って、「修理代を各自負担すると」言う合意の効力は有効であると言う結論となりますから、あなたは相手方に修理代を請求できないことなります。

Q11は当事者が事実関係や法律を良く分からないまま合意した例であり、Q12も同じですが、Q12は「それでも解決する、つまり、後から文句は言わない」ことを双方が了解しているため、結論が異なって来るのです。「合意した」「約束した」と言うる場合、何を合意し、約束したかが重要です。

Q13
わたしは追突事故を起こしてしまいましたが、相手方の被害者から事故直後、「新車で返してくれ」と言われましたので、それを認めました。後から、相手方の車を修理をした場合、修理代と格落ち損害の合計が約400万円、新車で返した場合は約1000万円を要することが分かりました。今から、「新車で返す」と言う約束は無効であると言えないでしょうか。 

A13
まず、Q12と同様に「錯誤」の適用を検討すべきですが、あなたの意思表示は「新車で返す」であり、また、真意も「新車で返す」と言うことです。従って、真意と表示の不一致があるとは言えないでしょう。但し、この場合、加害者が負うべき賠償義務の範囲について判断を誤ったと言うことも考えられ、その面から「錯誤」の適用も検討する必要があります。しかし、「新車で返す」と言うのは大抵のドライバーならば賠償義としては本来の限度を超えていると十分、知っている場合の方が多いでしょう。ですから、そうした点からて真意と表示の不一致を言うことは難しいかも知れません。

本件の場合、「新車で返す」と言う合意は民法90条により無効であると言える可能性があります。民法90条は公序良俗違反の契約を無効としています。「公序良俗違反」と言うのは様々な内容を含んでいますが、その一つは「他人の無思慮、窮迫に乗じて不当の利益を得る行為」つまり「暴利行為」です。

事故直後、事故当事者は冷静な判断が出来なくなります。そうした状況でなされた本来の賠償義務を大幅に超える責任を負うと言う約束は「暴利行為」と考えられます。従って、「新車で返す」と言う合意は無効であると主張できる可能性はあります。

Q14
事故に遭い、車が損傷しましたが、加害者から修理代を支払うと言う口約束をとりました。ところが、加害者は示談書を作成していないので、示談は成立していないと主張しています。示談書を作成しなければ、示談は成立しないのでしょうか。   

A14
示談書を作成しなくても示談は成立します。示談とは契約の一種ですが、契約は原則として口頭の合意だけで成立するからです。
なお、「念書」と言う表題の文書も作成されることがありますが、「念書」は口頭の合意が成立したことを確認するための文書です。効力としては示談書と同じと考えて良いでしょう。

Q15
追突事故に遭いましたが、加害者(追突車の運転手)は対物保険に入っておらず、支払い能力も無いので、私は自分がかけている車両保険を使い、自分の車を修理しました。しかし、そのために保険料がアップしましたので、保険料の増加分を損害として加害者に請求したいと思いますが可能でしょうか。   

A15
この問題については2つの判決があります。一つは平成9年の名古屋地裁の判決で、もう一つは平成10年の東京地裁の判決です。いずれも保険料の増額分の請求は認められておりません。

東京地裁の判決はこのように言っています。
「車両保険は原告がリスク回避にために契約しているものであって、これを使用するか否かは原告の自由であるし、保険料が増額されるのは原告が契約した保険契約の内容によるものであることなどを考慮すれば、保険料の増額分は事故とは相当因果関係に無い」 

保険の目的は確かにリスク回避のためであることは間違いはありません。従って、保険料はリスク回避のための経費と言っていいでしょう。しかし、それが何故、加害者に請求できないと言う理由に結びつくのでしょうか。これは損害賠償法の基本理念に関係があると考えられます。

損害賠償法の基本理念は「損害の公平な分担」です。そうした理念を前提とすると保険によって利益を得る者は保険料と言う経費を相手方に負担させるべきではなく自ら負担すべきである言わざるを得ないのです。

<補足>
関連の判例を明示しておきます。
名古屋地裁、平成9年1月29日判決、自動車保険ジャーナル1201号
東京地裁、平成10年12月9日判決、交通民集31巻6号1880頁
東京地裁、平成13年12月26日判決、自動車保険ジャーナル1435号
また、「赤本1999年版」218頁以下の村山裁判官の論考が参考になります。

Q16
私の車のバンパーには金メッキをしていますが、この度、事故に遭い、バンパーが破損しました。私は加害者側保険会社に修理代を請求していますが、保険会社は「パンパーの金メッキ代については認められないと言う判例がある」と言っており、金メッキ代についての支払いを拒んでいます。本当にそのような判例があるのでしょうか。

A16
平成2年に東京地裁は「バンパーの金メッキ代は修理代として認められない」と判断しています。しかし、この地裁判決は控訴され、東京高裁では金メッキ費用の5割を認めると言う判決を下しました。

東京高裁の判決をまとめると次のようになります。
1 バンパーと言うのは自動車の損傷、搭乗者の死傷を防止、軽減することを目的として  いる
2 バンパーに金メッキを施すことはその効用を増大させるものではない
3 逆に事故があった場合の修復費用を増大させるものである
4 従って、金メッキにより損害が拡大したと言えるので、加害者にその全額を負担させる  べきでない

以上の通り、金メッキ代の全額は請求できないにしても半分は請求ができると言うことになります。この事件はバンパーの金メッキ代が問題となりましたが、車には本来の効果とは無関係の様々な装飾、装備が施されることがあります。その場合も東京高裁の判決は参考になります。

<追加説明(大阪地裁 平成8年3月22日の判例について)>
ポルシェを購入した者が420万円をかけて改装をした所、事故にあった事例ですが、上記の大阪地裁の判例はその改装を時価の算定に当たって考慮しないと言う判断をしました。その理由として改装はポルシェの走行上不具合があったからで無く、カーマニアとしての趣味を満たすものでなされたと言う理由に基づいています。これは金メッキバンパーの判例と同趣旨のものと言えます。ちなみに改装した点はドイツからとりよせた塗料での塗装、ダッシュボード、サイドパネルの交換、エンジンのオーバーホールです。

 

Q17
私の車は対向車線からセンターラインオーバーして来た車と正面衝突しました。相手方は当初は自分がセンターラインオーバーをしていたことを認めましたが、最近、言い分を変え私がセンターラインオーバーをしたと言い始めています。事故状況をどのようにして証明すれば良いでしょうか。

A17
まず、物損だけでなく、人身事故も発生している場合は、警察が実況見分調書等の刑事記録を作成していますので、その書類を取り付けることで事故状況の証明をします。書類の取付け方は人身編「問題の要点」のQ3、Q4を参照して下さい。

人身事故が発生していない場合は、警察は刑事記録を作成しないのが通常ですので、証明が困難になります。しかし、警察は物損事故については「物件事故報告書」を作成しており、それを弁護士照会で取り寄せると言う方法があります。

但し、物件事故報告書は交通事故証明書程度の記載しか無い場合が殆どで、図面が添付されている場合も大ざっぱなものであり、証拠としての価値に乏しいのが実状です。
ですが、稀に事故状況の核心が記載されていることもありますので、「駄目元を覚悟でやってみる」と言うのも一つの方法であると思います。

目撃者がいる場合や、車両の損傷状況から事故状況が分かる場合は良いのですが、そうした証拠が無い場合、物損事故で事故状況を立証することはとても難しいと言えます。
しかも通常、物損は金額的にも僅かですので適当な所で丸く収めると言う柔軟性も事故当事者には必要になって来ます。

<補足説明>
事故状況についての当事者の言い分が異なる物損事故は多発しております。多くの場合、損害額が少ない割に、当事者が感情的になっており、事故状況の決め手となる証拠が無いと言うのが実状です。このような場合、あなたの車両に車両保険が付保されていたならそれで支払いを受け、一見落着とすべきです。

また、車両保険が付保されておらず、対物保険のみしかが付保されていないならば、保険会社の顧問弁護士に調停か訴訟をして貰うと言うのが、良いと思います。保険会社としてはあなたの車両の修理代等を請求するのは本来の仕事ではありませんが、事故状況についての主張が相手方と異なっていると言うことは相手方はあなたにも損害賠償義務があると言う表明をしている訳ですから(その損害賠償義務が認められた場合は保険会社の対物保険で支払うことになる)、そこに保険会社の出番があることになります。

こうした決め手の無い事件において、裁判所がどのようにして判断をするかと言うことも問題となりますが、管理人の見たところ「どちらの言い分が事故状況として自然か」と言う点に着目しているように思えます(「自然」と言う判断も微妙なものがありますが)。なお、あなたが自分の車に対物保険をつけていなければ自分で訴訟等をやるしかありません。

また、物損事故と言うのは本来、手間、暇をかけるものではありません。所詮は「モノ」なのですから、真実を犠牲にしても迅速に解決すべきです。加害者が嘘を言って、事故では多少、トクをしたとしても、そういう人格の加害者は人生をトータルに見れば、プラスマイナスの帳尻はマイナスになっているはず だと考えておけば良いのです。

 

Q18
車対車の事故で私の過失は3割、相手の過失は7割です。代車が必要なので相手方の保険会社に代車を出して欲しいと言ったところ、「代車は出せない」と言われました。仕方なく、自分でレンタカーを借りましたが、レンタカー代として10万円を出費しました。何故、保険会社は代車を出せないと言ったのでしょうか。また、私が出費したレンタカー代を相手方に請求できるのでしょうか。

A18
1 結論
あなたが出費したレンタカー代の内、相手方の過失割合分、つまり7万円を請求できます。自分の過失割合分である3万円は自己負担と言うことになります。

2 保険会社の代車の処理の方法
被害者が代車を必要とする時、次の2つの方法があります。
(1)被害者自らレンタカー会社から車を借り、自分でレンタカー代を支払い、加害者に請求する
(2)加害者側保険会社がレンタカー会社から車を借り、被害者に使用させる。レンタカー代は保険会社がレンタカー会社に直接、支払う。

損害賠償問題においては金銭賠償が原則であるので(Q4参照)本来は(1)が原則です。しかし、実務上は(2)の方法が普通です。これは保険会社がレンタカー会社と提携をしていて、安くレンタカーを借りられるので、(1)の方法より保険会社のコストが少なくて済むからです。

3 では、何故、被害者にも過失がある場合、保険会社は代車を出さないのか

(2)の方法では保険会社はレンタカー会社に100%レンタカー代(Q18の例では10万円)の支払い義務が生じます。本来、保険会社は加害者側の過失分(Q18の例では7万円)を払えば良いはずですが、レンタカー会社と保険会社の契約上、保険会社は100%支払わなければならないのです。

従って、保険会社としては(2)の方法による場合、被害者の過失分(3万円)を被害者から取り立てなければなりません。
このため、保険会社には被害者過失分の回収が出来ないかも知れないと言うリスクが生じます。

また、レンタカー代の一部を被害者に請求することは示談交渉を難航させる原因となります(被害者にとっては予想外のことですから)。
それ故、保険会社は被害者に過失がある場合、「代車は出さない」と言うのです。また、そうした実務は定着していると言えます。

4 被害者はどうすれば良いか

被害者には保険会社に「代車を出せ」と要求する法律的権利はありません。これは損害賠償は金銭賠償が原則であるからです(Q4参照)。被害者としては自らレンタカー会社から車を借り、一旦、レンタカー代を支払った後、保険会社に加害者過失分を請求することになります。つまり、(1)の方法に依ることになります。

被害者がレンタカーを借りる場合、「自分でレンタカーを借りるが、レンタカー代の内、加害者過失分を認めてくれるか」と保険会社に打診をしておくべきでしょう。

5 相手方の代車代は

相手方(加害者)が代車を使用した場合は被害者に自分の過失分の支払い義務が生じます。つまり、

被害者が加害者に請求できるのは
(被害者車両の修理代+被害者の代車代)×加害者の過失割合

加害者が被害者に請求できるのは
(加害者車両の修理代+加害者の代車代)×被害者の過失割合

となり、双方が支払いあうか、相殺して処理することになります。
また、このような場合、代車代を考慮するのは煩わしいので、代車代抜きに、修理代だけを損害として処理することも実務では広く行われています。

6 注意すべきこと

保険会社は「被害者に過失がある場合、代車は出さない」と言いますが、それはそれで、法律的には問題はありません。しかし、「代車を出さない」と言うのはあくまで、「代車と言う<車の現物>を保険会社がレンタカー会社から借りて、被害者に貸すことはしない」と言う意味に留まります。

最初の結論の所で述べた通り、被害者が自ら代車をレンタカー会社から借りて、レンタカー代を出費した場合はその費用の内、加害者の過失割合分を請求することは可能です。

<補足説明>
物損において加害者側損保が支払いたく無い損害項目は「格落ち損害」と「買替諸費用」です。損保側は払わない理由として代車代と同様に「過失相殺」を理由として持ち出すことがありますが以下の通り、法律的な根拠はありません。

格落ち損害も買替諸費用は「損害」のレベルの問題であり、過失相殺は「責任」のレベルの問題ですが、加害者の賠償範囲は次の通りです。
加害者の賠償範囲=「損害」×加害者の「責任割合」
従って、加害者過失がゼロとならない限り、加害者の賠償範囲はゼロとならないのですから、過失相殺を理由に支払いを拒むことは出来ないと言えます。

 

Q19
わたしの車は事故で破損し、修理をしましたが、修理が十分では無く、同じ箇所の再修理が必要となりました。この再修理代を加害者に請求できるのでしょうか。また、再修理の期間、借りていた代車代を請求できるのでしょうか。

A19
まず、事故車の修理と言うのは誰と誰との間にどのような契約が結ばれるのかが基本となります。
車の修理は被害者(所有者ないし使用者)と修理工場との間に締結される請負契約です。請負契約は民法に規定されていますが、一方が仕事の完成を約束し、他方が仕事の結果につき報酬を支払うと言う内容の契約です。

加害者側の保険会社は修理工場での立ち会いをしますが、これは修理代を巡って紛争が生じないように単に修理業者との間で修理代を確定するだけの作業です。それ故、保険会社は契約上の当事者とはなりません。

ところで、事故車の修理をする契約の具体的内容は修理業者が被害者に対して、「事故により損傷した箇所の修理を完成させ、損傷による不具合を解消する」ことを約束するものです。

また、修理代については加害者側保険会社と修理工場の間で協定がなされますが、協定された修理代は上記の契約内容の履行を条件として被害者が修理業者に支払うべき対価(報酬)と言うことになります。
(保険会社は修理業者に対して、修理代支払い義務を負いません。契約当事者ではありませんから。保険会社が修理業者に直接、修理代を支払うのは、被害者が支払うべき修理代を立て替え払いしていると言えます)

本問の例のように最初の修理で不具合が解消していないと言うことは修理業者が契約を履行していないと言うことを意味します。それ故、被害者は修理業者に契約内容に従い、修理をするように要求が出来ることになります。当初の契約の範囲内のことを要求しているだけですから、再修理費用が生ずると言うことも法律的にはあり得ません。

また、その裏返しとして、加害者ないし加害者側保険会社に再修理の費用を請求できないと言う結論も導かれます。

再修理期間、借りた代車代についてはどうでしょうか。
本来、最初の修理期間で完全な修理ができた筈ですから、それの期間を超える代車の使用については事故と相当因果関係が無いと言えます。従って、代車代は請求できないと言う結論となるでしょう。

被害者としては修理業者から再修理費用を請求されたならば、それは当初の修理代金の中に含まれていたと主張すべきです。
また、代車代は修理業者に請求することになります。

 

Q20
わたしの車は事故で破損し、修理代として20万円を要しました。わたしの過失は3割なので加害者側保険会社は20万円の7割である14万円を対物保険で支払うと言っていますが、それでは差額の6万円は自分の負担となるので、加害者にその差額を負担して貰いたいと思います。差額の6万円を負担せよと加害者に要求することは出来るでしょうか。

A20
「差額の負担を加害者に要求することが出来るか」との意味は「差額を請求する法的権利が存在するか」との意味と思います。

そのような意味であるならば「要求することは出来ない」が答えとなります。
ご相談の事案のような場合、加害者は修理代20万円の7割である14万円を支払うべき法的賠償義務を負います。従って、それを超える金銭の負担を求めることは法的賠償義務を超える負担を要求することに他ならず、法的な権利としての請求権は存在しないからです。

一般的に言って、対物保険にせよ、対人保険にせよ、加害者の法的賠償義務を限度として支払われるのですから、保険会社の支払分とは別の加害者本人の自己負担分は法的賠償義務を超えることになるのです。従って、加害者が自己負担すべき法的義務を負うと言う事態は生じないのが普通です(勿論、保険金限度額を超える損害が発生したような場合、超過分は加害者側の自己負担となりますが)。

しかしながら、加害者が示談交渉をこじらせたく無い等の理由で、任意で保険会社の支払い分以外に自己負担する例はあります。従いまして、あなたとしては保険会社を通じて、加害者に保険以外に自己負担する意思があるか否かを打診して貰うのが良いでしょう。勿論、加害者の答えが「ノー」であれば諦めるべきです。

 

Q21
私は業者から新車を購入し、自宅に戻る途中、事故に逢いました。車を購入してから事故に逢うまで、約30分です。加害者には新車を要求したいのてすが、可能でしょうか。

A21
答えは不可能です。新車要求が出来ないと言うことは法律家にとっては余りにも明々白々のことですので、これまでこの問題を取り上げて来ませんでした。しかしながら、度々、「新車要求は可能か」と質問されることも多く、一般の方にはそれほど、明々白々とは言えないと感じ、取り上げました。

設問の例は実際にあった判例の事案ですが当然、新車要求は否定され、被害者に認められた損害は修理代と格落ち相当分程度です(格落ちと言う構成はとっておりませんが)。設問の例の被害者が新車要求をしたい気持ちは十分分かりますが、我が国は法治国家なのですから、被害者としては気持ちは気持ちとして法に従うと言う決断すべきです。

新車要求のタイプとしては
1 新車そのものの請求
2 新車代金の請求
3 新車との買い換え差額の請求

と言う3タイプありますが、何れも法律的に認められるものではありません。

なお、代車を保険会社から被害者に提供されていることがありますが、代車を「人質にとる」と言う手段で新車要求を保険会社に認めさせようとする悪質な被害者もいます。しかし、浅知恵としか言いようがありません。このような手段をとった場合、負担がかえって被害者に及ぶと言うことを覚悟すべきです。

被害者が新車請求をしていることを理由として加害者側損保が代車を出さない、弁護士対応とする、あるいは債務不存在確認訴訟を提起することがありますが、これは損保側の通常の対応であり、また、適正な対応ですので、非難には値しません。

<補足説明>
新車要求をされた場合、加害者側の立場に立って説明をします。被害者が新車要求をする場合、「保険会社が払わない部分を加害者が自己負担しろ」と必ず言います。

加害者が自己負担する気があるなら問題はありませんが、通常は自己負担をする気は無いでしょうから、その旨を被害者に明確に伝える必要があります。また、被害者がこのような不当な要求を続ける場合、保険会社から弁護士対応にして貰う必要があります。

保険会社が弁護士対応をしない場合、その保険会社は弁護士費用を惜しみ、顧客サービスをしないダメな保険会社と考えて良いでしょう。保険会社によっては被害者から訴訟を起こされないと弁護士対応にできない言うこともありますが、そのような言い方しか出来ない保険会社はダメな保険会社の典型です。

被害者は「自己負担をしろ」と言う意味合いで「誠意を見せろ」と言うことがあります。
加害者は「自分としては自己負担はしない、それがあなたに誠意が無いと受け取られるならば、それはそれで仕方が無い」と答えるしかありません。この言葉によって被害者の怒りが増すことになりますが、新車要求の事案で、被害者が不当な要求を得ることを目的としているか、物分りの悪い人の場合、「被害者が徹底的に怒る」と言う場面を通過しないで解決することはありません。

 

Q22
加害者に誠意が見られないのでこのまま示談をしたくありません。どうしたら良いでしょうか。

A22
まず、「誠意」と言うのは一体、何でしょうか。「謝罪」でしょうか、「見舞い」でしょうか、それとも「加害者の自腹からだすお金」でしょうか。
「誠意」と言われても加害者は分からないのが普通です。従って、加害者には「誠意」と言う抽象的な言葉を使うのではなく、あなたが「誠意」と言う言葉に具体的に込めている意味をはっきりさせる必要があります。

次にあなたが加害者に対して「誠意」を要求しても、加害者が「誠意」を見せない場合、「誠意」を見せることを法的に要求することは出来ません。

また、物損については適当なところで解決すべきであると言う管理人の見解(Q17の補足説明の部分)も参考にしてください。

<補足説明>
なお、こうした問題の一つの解決方法としては示談書を郵送でやりとりするのでは無く、示談する際、損保担当者とともに加害者本人に来て貰い、そこで、謝罪をさせ、示談書に捺印をすると言う方法が考えられます。
また、調停を申し立てて(この場合は損保側弁護士が出頭する可能性が高いのですが)、加害者本人にも出頭するように求め、調停の席で謝罪をすることを条件に調停を成立させると言う方法も考えられます。
しかしながら、物損、軽微な人身損害については余りこだわるべき問題ではないと思います。

Q23
私は追突事故を起こした加害者ですが、先行車は急ブレーキをかけたので追突したのです。私の方の任意保険会社は追突だから、10割の過失があると言っておりますが、先行者が急ブレーキをかけた点で先行車の被害者にも1割の過失があると思っており、自分の保険会社の意見には納得できません。どうしたら良いでしょうか。

A23
被害者が加害者側保険会社が提示した過失割合に納得できないと言うのが通常の事態ですが、加害者側が自分の任意保険会社の過失割合に納得しない場合もあります。
人身事故では余りありませんが、物損事故では上記のようなことがしばしば起こります。

もともと、実務で使用されている過失割合の基準は一つの目安に過ぎないのですから、10割も9割もどちらが正しくて、どちらが間違っていると言うことはあり得ないのです。また、加害者は10割でも9割でも自分のフトコロが痛むわけでは無いのですから(賠償金は任意保険会社が払う)、このような主張をすることはおかしなことです。

「正しい過失割合」「正義」の名のもとにこのような主張を加害者はしますが、「ちょっとでも相手の悪い所を認めさせたい」と言うくやしい感情だけが原因であることを加害者は自覚すべきです。被害者を困らせるだけの無意味な行為ですし、事故の過失が10割から9割になったからと言って、何が変わるのでしょうか。自分の側の保険会社が10割の過失を認めているならば、加害者も素直にそれに従うべきです。従えないと言うならば、示談代行をさせてはいけません。

事故状況についての主張が被害者と全く違うと言う場合はともかく、些細な過失割合の違いで解決を遅らせるのは馬鹿げたことです。