労災を使うメリット

労災を使うメリットは様々ありますが、弁護士としては最終的な解決の段階でどのようなメリットがあるかと言う点に関心があります。

そこで、治療費につき
1 労災、国保・健保を使わず加害者側損保が病院に支払った場合(自由診療)
2 労災を使った場合
3 国保を使った場合

につき、それぞれ最終的な損害賠償額をどのように算定するか考えることにします。

ここで、治療費を200万円、休業損害、慰謝料、逸失利益等、その他損害の合計を1000万円とします。
また、過失相殺を4割、既払い金は治療費のみとします。なお、事案は極めて単純化しております。


1 労災、国保・健保を使わず加害者側損保が病院に支払った場合(自由診療)

総損害は治療費プラスその他の損害で1200万円となります。

既払い金は200万円です。加害者側損保が病院に直接支払っているので、治療費全額が既払い金となります。

被害者が賠償請求できる額
総損害(治療費+その他損害)は1200万円
従って、1200万×0.6−200万=520万円


2 労災を使った場合

まず、治療費のみが労災から200万円支払われたと言う前提です(労災から病院に直接支払われている)。
この場合、1では既払い金は200万円でしたが、労災では「費目(この例では治療費と言う費目)は他の費目に流用できない」と言うことから、既払い金は120万円(=200万円×0.6)
となります。

被害者が賠償請求できる額
総損害は1200万円です。
1200万円×0.6−120万円=600万円

なお、治療費の200万円については労働局が加害者側損保に請求(求償と言います)します。加害者側損保は加害者の過失割合に応じて支払うことになります。損保の支払い額は120万円と言うことになります(200万×0.6=120万円)。


3 国保を使った場合

治療費200万円のうち、3割である60万円が自己負担分とします。
総損害は治療費自己負担分とその他の損害の合計ですので1060万円となります。
自己負担分の60万円は加害者側損保が支払ったと仮定、つまり既払い金とします。
自己負担外の140万円は損害の算定の際には考慮しない扱いです。

被害者が賠償請求できる額
1060万円×0.6−60万=576万円

なお、治療費のうち、国保負担分である140万円は国保組合から加害者側損保に求償します。加害者側損保は過失割合に応じて支払うことになります。この例ですと84万円となります(140万×0.6=84万円)。


以上の考察より、被害者にメリットのある順は2→3→1と言うことになります。
また、メリットは「労災では費目の流用をしない」と言う点から生じていることが分かります。つまり、大きなメリットは被害者にも過失があって、治療費が大きい場合、つまり大きな後遺障害が残存するような重傷事故の場合、生ずると言うことになります。軽傷の場合にはこうした点は殆ど問題となりません。ですから、多くの軽傷事案の場合は多少の違いはあるかも知れませんが、余りこうした点に神経質になる必要はありません。


一方、加害者側損保の負担額は1,2,3で以下の通りとなります。

1 520万+200万=720万円
2 600万+120万=720万円 
3 576万+84万+60万=720万円

加害者側損保はいずれでも負担額は同じなのですが、過失割合の話は被害者とするよりも労災や国保とするほうがやり易いので労災、国保・健保の使用を求める場合があります。また、対被害者には過失相殺4割で交渉し、労災、国保に対しては5割の交渉をするなども可能ですので、その面でも加害者側損保としてもメリットがあることになります。


労災、国保・健保を使うメリットについてはそれ以外にもあり、他のHPにも紹介されておりますので、改めて紹介する必要は無いと思います。
弁護士はあくまで、法的な損害賠償と言う点から被害者に最も有利な手段は何かと言う観点から考えます。
そこでまず思い浮かぶのが「休業特別支給金」や「障害特別支給金」では無く、、労災では「費目の流用をしない」と言う点であり、そうした面からの紹介をしました。